園子温の映画「愛のむきだし」で用いられたキリスト教関連のあれこれ
いまさらですが、園子温の映画、「愛のむきだし」(2009年)を見ました。
カトリックの家庭に育った主人公、キリスト教系新興宗教が物語内で大きな影響を及ぼすなど、全体的にキリスト教モチーフにあふれたこの映画。
自分としてはまだ咀嚼しきれていないので、多くを語ることはまだできないのですが、ひとまず、映画を見ていて気がついた、キリスト教関連のモチーフについて、簡単にまとめてみようと思います。
1.主の祈り(カトリックと聖公会の共同口語訳)
物語序盤で、主人公、本田悠の父(カトリックの神父)が唱えていた祈り。
「……わたしたちの日ごとの糧を今日もお与えください。わたしたちの罪をお赦しください。わたしたちも人を赦します。わたしたちを誘惑に陥らせず……」
これはクリスチャンなら100パーセント誰でも唱えることができる、主の祈りというものです。
翻訳にはいくつかあり、この物語中で用いられていた口語訳の祈りは、カトリック教会と聖公会(英国国教会にルーツを持つ教会)が共通で定めた日本語訳です。
天におられるわたしたちの父よ
み名が聖とされますように
み国が来ますように
みこころが天に行われる通り地にも行われますように
わたしたちの日ごとの糧を今日もお与えください
わたしたちの罪をお赦しください
わたしたちも人を赦します
わたしたちを誘惑に陥らせず悪からお救いください
国と力と栄光は永遠にあなたのものです
アーメン
ちなみに、現在もプロテスタントの教会で広く用いられていて、一般にも知られている
「天にまします我らの父よ〜」
は、明治時代以来使われている文語訳のものになります。
2.本田悠の使っている聖書
序盤、主人公の本田悠が買い求めて読み始める聖書。
表紙がカラー印刷で緑色のものです。
これはカトリックの修道会が独自に日本語へ翻訳した、「フランシスコ会訳聖書」というものです。
特徴は、聖書への注解が充実していることです。
↑フランシスコ会訳聖書。劇中で主人公が使用していたのと同じもの。
ちなみに物語中では、日本で現在カトリック・プロテスタントの別なくもっとも使われている「新共同訳聖書」も画面に写り込んでいました。
(Amazonで探してみましたが、古い装丁のものなのか扱いが見つかりませんでした。白地の紙カバーのもので、教会に置いてあるのはよく見かけます)
3.テゼの歌
「愛のむきだし」では、物語前半の最後で、何度もリフレインする曲が2つ使われました。
(奇跡が起こった後)
ここで用いられた曲は2つとも、「テゼの歌」というもの。
テゼの歌とは、テゼ共同体という、第二次大戦後にフランスの小さな村「テゼ」で生まれた男子修道会で作られた、短いフレーズを繰り返す形の聖歌・讃美歌のこと。
世界中の若い世代のクリスチャンを中心に行われるテゼの祈りでは、聖書から取られた短いフレーズに曲をつけ、何度も繰り返して歌うことが行われるようになりました。
「愛のむきだし」で引用されている2曲は、ともにテゼの歌としてはメジャーなもので、日本のテゼの祈りの会でも実際に頻繁に用いられているものです。
テゼの礼拝では、ギターやフルートなどの演奏とともに歌われることが多いです。
曲1:Confitemini Domino
テゼ: 歌え主に感謝 (Taizé: Confitemini Domino)
日本語では「歌え主に感謝 恵み深い主に 歌え主に感謝 アレルヤ」と歌われます。
曲2:Adoramuste O Christe.
Taizé - Adoramus te, o Christe
日本語では「おお ともに主をたたえん」と歌われます。
ちなみにテゼの歌詞や楽譜は以下の本に載っています。
4.コリントの信徒への手紙1 13章
愛のむきだし、作中随一の名シーンともいえる、ヨーコ(満島ひかり)が主人公に聖書の一節を叫ぶシーン。
そこで読まれているのは、新約聖書に含まれる「コリントの信徒への手紙1」の13章です。
1コリ 13章とか略せます。
「信仰と、希望と、愛、この三つは、いつまでも残る。その中で最も大いなるものは、愛である 」
(新共同訳)
これは、山上の垂訓の「心の貧しい人は幸い〜」と並んで、聖書の中でももっとも有名な箇所といってもよいでしょう。
(なので、ヨーコの「神父の息子なのになんでそんなことも知らないのか」というセリフには、そりゃ、そう思われて当然だよな、となってしまいました)
愛のむきだしはすごい映画
今更自分が言うまでもなく、愛のむきだしはすごい映画でした。
教会に通い、ある程度先入観がある状態で見てしまったことをもったいなく思ってしまいました。
もし可能なら、教会のある程度若い世代の人、とくに親の代からクリスチャンという人と見て、どう思うのか感想が知りたいくらいです。
4時間以上ある大作なので見るのは大変ですが、テンポがよく一瞬で見終わってしまうので、ぜひ鑑賞してみては。