埼玉県立近代美術館『迫り出す身体』の展示、特に二藤建人がすごい

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埼玉県立近代美術館で行われている企画展『NEW VISION SAITAMA 5 迫り出す身体』を見てきた。

(会期:2016917日(土)〜1114日(月・埼玉県民の日))

 

埼玉県内の新進作家を紹介する企画展で、7人の作家による展示が繰り広げられている。

……とだけ聞くと、埼玉というきわめてローカルな作家だけの、内輪向けの展覧会、企画展示室を埋めるためだけの展覧会なのかと捉えられがちだと思うのだが、ところがこの展覧会が、ものすごくよかったのだ。

 

とくに、下手な都内の美術館やギャラリーよりも、インスタレーション作品がとてつもなく感動的である。

気持ちのいいほど新鮮な、見ていてスカッとする表現から、心を揺さぶられるような見たこともない表現。

 

そして、作家の展示意図もさることながら、展示技術について感動してしまった。

 

キュレーターや作品展示、博物館学に興味がある方は、展示室でものすごい無茶をしていることを目の当たりにできるので、とくに二藤建人の作品はぜったい見たほうがいいです。

 

 

NEW VISION SAITAMA 5 迫り出す身体』

まず展覧会の概要について。

 

展示作家と会期など

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この展覧会は、埼玉県に関係の深い7人の新進作家による展覧会。

会場はJR北浦和駅西口すぐの埼玉県立近代美術館

会期:2016917日(土)〜1114日(月・埼玉県民の日)

 

出展作家は以下の7人。

 

青木真莉子(1985年 埼玉県蓮田市/東京都在住)

 

宗教や民俗学に根ざしたインスタレーションを展開。

この展覧会では、黒川紀章建築による美術館内部の吹き抜けに映像作品を投影している。

 

小左誠一郎(1985年 静岡県生/さいたま市在住)

 

平面抽象画を出展。

 

鈴木のぞみ(1983さいたま市/埼玉県川口市在住)

 

本展では、解体される直前の古民家の窓ガラスに写真用の乳剤を塗り、その庭の景色を露光したインスタレーションを展開。

今年、浦和駅近くでも展示を行ったとのことだ。

 

高橋大輔1980年 埼玉県越谷市/埼玉県比企郡小川町在住)

 

絵具の厚塗りが特色の油画作品を展示。

個人的には展示方法には写真家のヴォルフガング・ティルマンスを、極端なまでの厚塗りには横須賀美術館で見た朝井閑右衛門を連想した。

 

二藤建人(1986年 埼玉県朝霞市/埼玉県和光市在住)

 

インスタレーション作家。

後述するが、とにかく展示方法というか、展示室の使い方が前代未聞ですごい。

とにかくすごい。

 

中園孔二(1989年 神奈川県生/20142015さいたま市在住/2015年没)

 

この人が物故していることは、この記事を書くときに出品リストを見るまで気づかなかった。

上述の二藤建人の次の展示室だったため印象が薄まってしまって損をしている。

平面作品。

 

小畑多丘(1980年 埼玉県所沢市/所沢市在住)

 

彫刻家。

一木彫で人物を彫り出すのだが、漫画チックというか、1990年代ポリゴンゲームというか、そういうイメージの作品である。

キャラクター造形には大友克洋っぽさも感じる。

今回の展覧会ではとにかく展示方法がとてもよく、とても気持ちのよい、サイバーな空間を楽しむことができる。

 

 

今回の展覧会の感動ポイント

 

では、今回の展覧会の最大の見どころとはなんだったのだろうか。

結論からいうと、二藤建人のインスタレーションが無茶をしすぎていて感動した。

 

二藤建人のインスタレーション

 

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とりあえず写真を見て欲しい。

 

見てのとおりなのだが、床から浮いている箱、というか部屋である。

これがこの作家のメインの展示だと思う。

 

単管パイプと石膏ボードで作られた部屋。

じつはこの部屋、展示室の天井から吊り下げられている。

 

吊り下げに使用されているのは展示室の可動壁のレール。

 

レールに金具を取り付けることで、箱全体を床から浮かせているのだ。

 

しかも、この部屋の中には入ることができてしまう!

靴を脱いで階段を上がり、入り口の襖を開けて部屋の中に入る。

 

その中の展示内容がどんなものかについては、実際に展示を見に行ってほしいのだが、部屋に入ると当然だが全体がぐらぐらときしんでいて、美術館の中で無茶苦茶やるなぁ……という気持ちも強くなるのだった。

 

床に土を盛っている

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そして、天井も無茶苦茶ならば床も無茶苦茶だ。

 

なんと、この二藤建人の展示室だけ、作品の下に本物の土を盛り上げてある。

 

ここは美術館の展示室。

床は当然、ふつうのカーペット張りだ。

 

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その上に土を盛り上げて、周りは木材で嵩上げしている。

隣の展示室から床下を見たところ、土の下にブルーシートは敷かれているようだが……。

 

2ヶ月くらいの会期がおわって土をどかしたときに、カーペットが大変なことになっていたりしないのだろうか?

 

展示設営や博物館学に興味がある人は必見

 

とにかく、この展示室、無茶をしすぎていて、少しでも美術作品の展示に興味がある人なら面白すぎて一日楽しめるくらいである。

 

というか、これの展示を補助したであろう美術展示設営業者の人もすごい。

これを実行した学芸員もすごい。

 

他では見ることのできない風景、それが埼玉県立近代美術館で見ることができる。

 

他にもこんなものが見られる

 

あとは強く印象に残ったのが、小畑多丘の彫刻作品。

 

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写真の通りの、まさに異空間。

 

あとは青木真莉子のインスタレーションも面白く、映像をすべて見てしまったが、こちらは写真は今回撮っていない。

 

埼玉県立近代美術館、ほかにもいろいろ面白いのでおすすめです。

 

たとえばこんな、デザインの教科書に必ず載っているような椅子の(リプロではない)本物に座ることもできますよ。