山内マリコ「ここは退屈迎えに来て」

ファスト風土の文脈で引き合いに出される、はてな住民が大好きな小説の1つ。
地元の個人経営の古本屋で100円になっていたので買ったのだった。

ようするに、田舎のローカルな価値観で育ち、東京へ帰属意識を持ちたくとも、持ちきることのできない女性たち(セクマイが主人公のものもあるが)の連作集である。

基本的に、本書はファスト風土という概念をベースに書かれている。
巻末の参考文献にも、例の「ファスト風土化する社会」が挙げられている。

基本的にファスト風土とは否定的文脈で語られるものだ。
この小説の主人公たちも、そんな風土はクソだと思っている方が多い。
ただ、彼女たちはみな、そこに折り合いをつけていく。

たしかにファスト風土はクソだと自分は思う。
ただ、本書で描かれるファスト風土は現実の象徴であり、東京や大阪といった都会は、ファンタジーやユートピア、かりそめの存在に過ぎない。

つまるところ、都会という夢と折り合いをつけて、ファスト風土という現実に帰還する物語なのだ。

たまたまそれがファスト風土であっただけで、大人になるために現実を受け入れたのだ。

じじつ、登場人物はみなカタギではない。
フリーターだらけだ。

だからこそ、彼女たちが大人になり、現実へ帰れたことを素直に祝福できるし、羨ましく思う。

いつまでも人はミニシアターに通ったりバックパッカーをしたり文筆のユメを追ったりはしていられない。
クソすぎる現実に慣れて、文化や夢や憧れを青春の思い出にすることでしか生きていけないのだ。

ここは退屈迎えに来て (幻冬舎文庫)

ここは退屈迎えに来て (幻冬舎文庫)