山内マリコ「ここは退屈迎えに来て」

ファスト風土の文脈で引き合いに出される、はてな住民が大好きな小説の1つ。地元の個人経営の古本屋で100円になっていたので買ったのだった。ようするに、田舎のローカルな価値観で育ち、東京へ帰属意識を持ちたくとも、持ちきることのできない女性たち(セ…

美術館展示設営業者についての覚え書き

昔、美術館で日雇いのアルバイトをしていたことがあった。 といっても大学生の頃のことで、だいぶ昔になる。 場所は東京都美術館が主である。 美術館のアルバイトといっても、ようするに肉体労働で、作品を慎重に手で運び、壁に掛けていく、といったものだ。…

宗教的発言をするようになった自分への戸惑いと嬉しさ

プライベートなことであるが先日洗礼を受けクリスチャンになった。そのことで、なぜ教会に行くようになったのかとか、宗教に向かったのかはなぜかということを聞かれて、親しい友人に答えたのだった。答えというか説明というか、決定的に自身を向かわせたの…

日本画も実物を見なくちゃわからない

なんでもそうなのだが、美術は特に実物をみないと作品の良さはわからない。 近代日本画の名品を見てきて、そのことが更によくわかったのだった。 行ってきたのは目白台の講談社野間記念館。横山大観と近代日本画の名品という展覧会だった。 講談社 野間記念…

PLACE M 香港雨傘運動 写真展

手短にだが、既に会期の終わったPLACE Mの写真展の感想を記す。 香港のデモについては、日本でのうのうと暮らしていて、あまり知ることがなかった。 今年になってから、この写真展と、もうひとつERIC写真展(アツコバルー)などを見ることで、それが東アジア…

三浦綾子 「道ありき」

薦められて手に取り、一気に読んだ。 <青春編>とあるとおり、著者の30代後半に至る、長い若い日を書いた一冊だった。 本書もまた、クリスチャンの著者の、信仰に至り、またその只中での思い描いたことなのだが、どうしてか、まず引き込まれたのは、冒頭の…

石川竜一 川島小鳥 木村伊兵衛賞受賞者展

すでに会期が終わってしまった展覧会なのだが、新宿コニカミノルタへ木村伊兵衛賞受賞者の写真展を見に行ってきたので簡潔に記す。木村伊兵衛賞というものが、いまひとつその意味合いを失ってから10年経つことに驚く。その転換点は誰から見ても、梅佳代と本…

Wilcox Sullivan & Wilcoxというアシッドフォークの人がすごい

2chまとめサイトのアシッドフォークのスレというのを開いてみたら、Wilcox Sulican & Wilcox というグループが異様に良くて感動した。 www.youtube.com こういうジャンルについてはまったく無知なのだが、これに感動したのは多幸感あふれるものが昔から好き…

過去になんて戻りたくない! 現在の肯定。

もし過去に戻れたら。 過去のある時点から人生をやり直せたら。 そういう願望は誰もが持ったことがあると思う。 人生の選択で間違いは多いし、理想の選択をやり直せたらどんなに素晴らしいことか。 そう思い、過去に他の選択をしていたらどうなっていたかを…

「そう考えるのは私だ」

今年に入ってからだと思うが、いつの間にか身につけたメソッドがある。 記事タイトルにした、「そう考えるのは私だ」というものだ。 私は、ほかの全ての人間と同じく、不安になることがある。悪い考えを持つことがある。 いや、常にそういう状態であると言っ…

小野美由紀 「傷口から人生」

「マオ・レゾルビーダ」ブラジルで、「未解決の人間」という意味。サンティアゴ・デ・コンポステーラへの旅路で、著者が教えてもらった言葉である。自分の家族、人生の悩みを解決していない人間を指すという。本書の全体を、この言葉が表していると思った。…

小島剛一 「トルコのもう一つの顔」

昨日、クルド人の祭のネブロスに行ってきて、自分がこの地域について何も知らないことを痛感した。 そこで、以前から読みたかった本である、トルコの少数民族について書かれた「トルコのもう一つの顔」を早速読んだのだった。 著者の小島剛一は言語学者で、…

クルド人の祭、ネブロスを見に蕨に行ってきた

埼玉県蕨市は日本一面積の狭い市として有名だが、クルド人が集まっていることでも一部で有名である。 トルコやイラン、イラク、シリアにまたがり住むクルド人は、それぞれの国で迫害され、日本にも少なくない人々が逃れてきた。なかでも東京に至近で家賃の安…

漫画のキャッチーな台詞の罪

「質問に質問で答える」と、ときにジョジョの奇妙な冒険の台詞を引用して煙に巻かれることがある。煙に巻くというより、ようするに詭弁のガイドラインにあるような、論点をずらしはぐらかす行為にほかならないのだが、私はこれが釈然としないし、するべきで…

百円ローソンのプリン

私の人生は常に百円ローソンとともにあった。 いや、昔はショップ99だったりもしたのだが、100円で買える菓子パンは、小腹がすいたときの友である。 なぜ百円ローソンが素晴らしいか。 それは、メロンパンが一袋に2つ入っているからではない。 その本質はプ…

「文豪」という言葉

文豪と言われて、誰を思い浮かべるだろうか? 私は、真っ先に森鴎外が浮かんだ。 トルストイ、ドストエフスキー。 スタンダールはちょっと違う気がする。 夏目漱石は、文豪と呼んでも問題無い気もするが、自分としてはその枕詞に多少違和感がある。 この、文…

AKIRA一気読み

うちの母は芸術家崩れだった。 70~80年代に青春を過ごしたその人は、まさに大友克洋の洗礼を受けた世代だった。 その子供である自分は、幼少の頃から、「AKIRAはすごい」「AKIRAには感銘を受けた」と言われて育った。 (もしかすると、それは映画版のことだ…

堀田善衞 「情熱の行方 スペインに在りて」

堀田善衞という名前は以前から知っていたが、その著作を読んだのは最近になってからで、その本は「インドで考えたこと」だった。 「インド~」ではアジアの中にある異質な存在である日本、極東の辺境である日本に気付くことができたが、同じ作者の著作で次に…

銀座ニコン 古橋宏之 / 資生堂 飯島桃代

移動の合間、銀座で二つの展覧会を見てきた。銀座ニコンサロン水を呼ぶ 古橋宏之写真展多摩川にて撮影したという写真展。河川敷の藪を撮る。藪を撮るというのは意味付けが伴わないと空虚になりがちだが、ステートメントを読む限り作家の世界観にうまく落とし…

アドラー心理学 人はよいことしかしない

アドラーの名前は少し前に知ったのだが、概説書を読み、この思考方法は私の心理を落ち着ける手段になると感じたので、メモの意味も含めその一部について書く。アドラーの言ったのは「人はよいことしかしない」ということである。といっても、所謂「善」しか…

遠藤周作 「イエスの生涯」

キリスト教に触れるようになって、遠藤周作の著作をよく読むようになった。好きな作家の名前を問われたら、いまならば遠藤周作と村上春樹の二人を挙げることになるだろう、そのくらいに読んで味わっていると思える。文体もおそらくは、自分に合っているのだ…

2015年2月三週 新宿〜四谷 写真展

少し前までは写真ギャラリーを頻繁に回っていたが、最近ご無沙汰だった。久しぶりに新宿から四谷にかけて回ることができたので感想を書く。新宿ニコンサロンyuiga写真展 傾がずの原藪写真というジャンルを耳にしたことがある。いわば流行のひとつである。現…

山本譲司 「獄窓記」

ふと、本棚にあった本書を手に取ったら、二時間ほどで一気に読んでしまった。国会議員であった山本譲司の獄中記で、言わずと知れた本である。賞を取り、ドラマ化もされた。初めて読んだが、本書の影響で累犯障害者などの問題がそれなりに知られるようになっ…

ハウス加賀谷 「統合失調症がやってきた」

ボキャブラ天国で一世を風靡した、ハウス加賀谷の自伝である。お笑いにはあまり興味がなく、10台の頃に笑う犬も見ていなかったし、細かすぎて伝わらないモノマネをネットで知ったのもかなり遅い自分でも、当時彼が残した強烈な印象は覚えている。負の思考と…

小林紀晴 「写真学生」

少し前まで写真学生だった。結局いまはほとんど写真を撮らなくなってしまったのだが、写真が生活の中心だった時期が確かにあった。いまどきシャッター速度と絞りとピントを手作業で合わせ、暗室の赤いセーフライトの下で印画紙に焼き付けていた。ただ、その…

矢野健太郎 「数学物語」

中学生の頃まで、理系の道に進みたいと思っていた。具体的には工学部に進みたいと思っていて、自分は将来、技術者になるのだと考えていた。しかし高校に入った途端数学でつまづき、方針を変えて文学部に入ったのだった。だから自分は数学は高校の途中までし…

「冷静と情熱のあいだ」を読んだ

もしかすると、もっと早く、大学にいたころくらいに読むべき小説だったかもしれない、自分はこの恋愛小説を読むには年を取ってしまったのかもしれないが、辻仁成と江國香織の「冷静と情熱のあいだ」を読み終えた。大まかな筋は見聞きしていたのだが、実際に…

北杜夫 「どくとるマンボウ青春記」

どくとるマンボウ航海記などで知られる作家、北杜夫の青春時代を描いたエッセイ、自伝。北杜夫の著作を読むのは初めてだ。往年のベストセラー作家という認識だったが、読んでみると普遍的に面白い。斎藤茂吉の息子という血筋は流石のものだと思った。内容は…

映画 「ヨコハマ物語」

正月に知人とレンタルで「ヨコハマ物語」という映画を見た。2013年作品、主演は北乃きい。タイトルの通り横浜が舞台で、山下公園や元町、中華街といったいわゆる「横浜」が頻繁に登場する。サッカーの中澤も本人役で出演したり、横浜スタジアムも出てきたり…

母とクメール・ルージュ

数年来のことだが、私には逃げ癖がついている。 忍耐することのできるレベルがとても低くなってしまい、耐えることのすべてが苦手になってしまっている。情緒にも影響を及ぼしている。 とくに、人との関わりから逃げることにおいて顕著である。 さて、その私…