北朝鮮のアイドル モランボン楽団の名曲が南北統一の象徴になりそうな件について

この記事の続きです。

 

kachiuchi.hatenablog.com

 

北朝鮮の女性アイドルグループ、モランボン楽団(牡丹峰楽団/모란봉악단)。

どこか日本の1980年代ポップスやアニソンを彷彿とさせるサウンドやメロディに惹きつけられるものがあるグループなのですが、この記事を書いている2019年から1年も前に、その立ち位置が韓国で少し変化しつつあるようなのです。

 

 

モランボン楽団


モランボン楽団は、金正恩の肝入りで創設された女性音楽グループ。
というか、アイドルグループです。

どれでもいいから曲を聞いてみると、なんだか懐かしいサウンドに聞こえてくることがわかるでしょう。

 

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↑走っていこう未来へ(달려가자 미래로、2012年の曲)

 

また、衣装も古典的なもの。
軍服をベースにした衣装は、同じく軍服に源流を持つマーチングバンドや、オタク文化界隈でいうと765プロアイマスで一時期用いられた衣装にも通じる、ようするに、良い意味でクサい印象を受けるものでした。

以前、韓国ドラマの冬のソナタが流行ったのは「まるで1980年代の日本ドラマのようだ」という理由で高年齢層にウケたため。
それと同じように、

ポピュラー文化において間違いなく先端ではない北朝鮮が精一杯にアイドルをやっているという、一種の健気さのようなものが感じられるのが、どこかこのグループに魅力を覚える理由なのかもしれません。

そんな北朝鮮の文化というのは一般にはイロモノ枠。
Twitterにはチョソンクラスタ北朝鮮クラスタ)というものがあり、非常に濃いです。
しかし日本では世間から引かれても仕方ないのも事実でしょう。

そんな、好事家に楽しまれてきた北朝鮮アイドルのモランボン楽団なのですが、もしかするとその楽曲の立ち位置が変わりつつあるのかもしれないと思うのです。


平昌オリンピックとモランボン楽団


2018年、韓国の平昌で開催された冬季オリンピック

その際、南北友好のために北朝鮮から文化交流のためにアーティストが派遣されました。
その名も三池淵管弦楽団(サムジヨン管弦楽団/삼지연관현악단)。

演奏家、歌手など北朝鮮の精鋭アーティストで構成された中には、モランボン楽団の現役・元メンバーも含まれていました。

そして、韓国でのパフォーマンスも行われたのでした。

上に貼った動画と同じ、走っていこう未来へ(달려가자 미래로)がこちら。

 

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衣装も振り付けも大幅に現代の韓国アイドル風にアレンジされています。

筆者はとくにチョソンクラスタではないので動向を追っていなかったのですが、久々にYoutubeモランボン楽団関連の動画を検索したところ、この動画を見つけて本当に驚きました。


「走っていこう未来へ」北朝鮮版と韓国版の違い


そして、違うのは振り付けや衣装だけではありません。

歌詞にもアレンジが加えられています。

変更されたのは、3番の以下の一節。

一生に一度しかない貴重な時代を
労働党の年月の上で金星として刻もう

一生に一度しかない貴重な時代を
この地の繁栄のために金星として刻もう

以下に、北朝鮮版の訳詞を貼ります。
(ハングルのテキストをGoogle翻訳したものを筆者が意訳。さらに正しい翻訳はネット上にあるかと思います)

すばらしい時代に青春を迎えたね
私たちができないことはひとつもないよ
走って行こう未来へ、新しい世紀が呼んでる
私たちの国 富強な祖国を楽園として築き上げよう

 

学ぶならこの時代に夜を徹して学び
創造と偉勲で新しい奇跡を起こそう
走って行こう未来へ、新しい世紀が呼んでる
私たちの国 富強な祖国に情熱で仕えよう

 

一生に一度しかない貴重な時代を
労働党の年月の上で金星として刻もう
走って行こう未来へ、新しい世紀が呼んでる
私たちの国 富強な祖国を永遠に輝かせよう

 


もともとの歌詞は北朝鮮朝鮮労働党に仕えようという歌詞であるわけですが、その部分を「この地」に変えるだけで、朝鮮半島の南北統一をシンボリックに歌い上げる曲に変えることができてしまったわけです。

 

韓国で受け入れられた「走っていこう未来へ」


この「走っていこう未来へ」という曲は、メロディが非常にキャッチー。
それでいて、1980年代を彷彿とさせる、とても耳あたりのよいものです。

筆者が初めてモランボン楽団の動画を見て驚いたのもこの曲の動画でした。

そんな、年齢を問わず馴染みやすい曲であることもあって、なんと、その後も韓国で南北統一のシンボルソングとして使われている様子がYoutubeにUPされているのです。
(動画タイトルの翻訳は筆者意訳)

 

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↑走って行こう未来へ カバー 韓国大学生進歩連合@南北労働者統一サッカー大会

 

上記は明白に南北朝鮮の交流イベントですが、そうではない場所での動画もあります。

 

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↑2018故郷の収穫ハンマダン ソウルで故郷に出会う
※「ハンマダン」とは「集い」のような意味のようです

 

少し古めの曲調であることで、逆に上の年齢層に受け入れやすいことにもなっているのだと思います。

 

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↑「踊ってみた」もあります。
(上記の動画は、解説文を翻訳したところ、練習用の左右反転バージョンのようです)

 

なんというか、最近これらの動画を目にして目頭が熱くなるものがありました。
筆者は別に左の活動家などではないのですが、いま、過去の歴史としてのベルリンの壁崩壊について読むと胸熱展開と感じるのと同じような感覚になるのです。

彼女らは北朝鮮の国家的エリートです。
曲調は古く感じても、その技術は一級品であることは間違いありません。

もしかしたら、将来、そのパフォーマンスをもっとさまざまな場所で目にすることができたら。
ぜひ見にいきたいと思います。
もし、そのときにメンバーが年を取っていたとしても、今の時点でこれだけの動きがあるのだから、後続のグループが更にすばらしいパフォーマンスを見せてくれるかもしれません。

 

モランボン楽団のパフォーマンスの変化


ちなみになのですが、モランボン楽団のパフォーマンスは、2012年の結成以来、着実に洗練されてきていることもわかりました。

ダンスの振付。
そして舞台の演出も

 

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↑初期?の「走っていこう未来へ」。
振り付けも演出もかなりシンプルです。

 

 

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↑2013年の「走っていこう未来へ」。
いちばん有名なバージョンで、かなり洗練されました。

 

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少し時系列が飛びますが、2018年末〜2019年正月の年越し公演。
非常にこなれていますし、現代的。
北朝鮮の文化の変貌を感じます。

そして、この記事では一貫して「走っていこう未来へ」を例に書いてきましたが、モランボン楽団のパフォーマンスの洗練をもっとも感じたのがこの動画。

 

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↑我らは万里馬騎手(우리는 만리마기수)
2016年12月28日公演

 

ぜひ一見してみてほしいのですが、初期の動画を見ていると、練り込まれてはいるものの、少し固さを感じる動きでしたが、この動画の2016年の時点ですでに、非常に自然なダンスパフォーマンスに成長しているのです。

また、いわゆる最近のアイドルの「センター」に近い、ソロパートでの動きも白眉。
モランボン楽団は、楽器メンバーのなかでもおそらくバイオリンがフィーチャーされていると思うのですが、途中にバイオリンソロの演出が織り込まれているのも、自分たちのグループの強みを自覚している証拠なのでしょう。

ちなみに、モランボン楽団の楽曲が1980年代のアニソンに近く感じるのは、ストリングスが多用されるからだと思います。
(アニソンは優位にストリングスが目立つ)

今後もさらに活動の幅が広がっていくであろう北朝鮮のアイドルグループ。
もしかすると、これから南北朝鮮の融和の象徴になっていくのかもしれません。