漫画のキャッチーな台詞の罪
「質問に質問で答える」と、ときにジョジョの奇妙な冒険の台詞を引用して煙に巻かれることがある。煙に巻くというより、ようするに詭弁のガイドラインにあるような、論点をずらしはぐらかす行為にほかならないのだが、私はこれが釈然としないし、するべきではないことだと思っている。
それは、あまりにキャッチーな言葉に容易に影響されて、その価値観に染まることへの違和感なのだろう。
なにを言ったところで、娯楽作品の、一作者の言葉に過ぎないのだ。
確かにジョジョの奇妙な冒険は面白いし、グラフィックとしても質が良い漫画なのは確かだろう。
だが、それはあくまでエンターテイメントとして書かれたもので、それを考え方のベースとすることは危険なのではないか。
荒木飛呂彦がその台詞を考えたときに、そこに氏の生き方を反映しているとは考えづらいし、台詞の派手さ、見栄えの良さが先に立っているだろう。
なによりも、こうしたキャッチーな台詞を引用した者は面白がってやっていても、そのことで対話の進行を簡単に止めてしまえるのが罪だと感じるのだ。
同様のことで著名作家で引き合いを出すとすれば、福本伸行も安易に使うべきではないといえる。
「カイジ」作中には、「金は命より重い」という旨の台詞が出てきて、これもキャッチャーさゆえに引き合いに出されるが、それは作中での露悪的キャラクターの演出にすぎず、本質ではない。
社会にそうした本質があったとしても、少なくとも作品の内ではそういう「敵」を乗り越えるカタルシスが描かれているし、あくまでも悪として描かれている。
だが、魅力的な悪として描かれているがゆえに、もしかすると、そういう露悪的な考え方に影響されてはいないだろうか。
漫画(に限らないが)はあくまでもエンターテイメントであり、そこに書いてある人生訓めいたものは、ときに危険をもたらす。
危険というのは、心が荒むということだったり、自ら会話を成り立たせなくしたりすることである。
漫画やアニメの名言を面白がって使っている内に、それが本当に人生訓になってしまうことを危惧してしまう。
それがポジティブなものならよいが、ネガティブな人生訓を持つのは褒められたものではないのではないか。
- 作者: 福本伸行,橋富政彦
- 出版社/メーカー: 竹書房
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