矢野健太郎 「数学物語」

中学生の頃まで、理系の道に進みたいと思っていた。
具体的には工学部に進みたいと思っていて、自分は将来、技術者になるのだと考えていた。
しかし高校に入った途端数学でつまづき、方針を変えて文学部に入ったのだった。
だから自分は数学は高校の途中までしか履修していないし、それどころか赤点ばかり取っていたのだった。

そんな自分が最近気まぐれに手に取ったのが本書、矢野健太郎の数学物語である。
数学のことなどずっと忘れ去っていたのだが、なんとなく、知識として数学の流れを思い出しておきたいと思ったのだ。

本書で扱うのは基本的に中学校までの範囲だ。
原始時代にどうやって数の概念が生まれたのか、というところから、ニュートンあたりまでの近代の初めまでを紹介している。
初めて世に出たのは1930年代終わりに、子供向けの啓蒙書としてだったようで、平易に数学への興味をかきたててくれる。
大人にとっては忘れていたことの振り返り、教養としてためになる。

面白かったのは、古代ではギリシャの人物を、近代ではヨーロッパの人物を紹介しているのに、その間をつなぐインド・アラビアの人々に名前がないことである。
「暗黒時代」という言葉がヨーロッパ中心史観から浮かんでくるが、単にギリシャやヨーロッパでは個人の名前が重視され、その外ではそれが重視されなかったというだけのことなのだろう。

数学物語 (角川ソフィア文庫)

数学物語 (角川ソフィア文庫)