島田清次郎 『地上 地に潜むもの』 感想

風野春樹島田清次郎』の刊行がきっかけで、杉森久英 『天才と狂人の間』を読んでから二週間。

これを機に、島清の代表作である『地上 第一部 地に潜むもの』を読むことにした。

 

若くして精神病院で夭折した彼の作品は、既にパブリックドメインになっている。

青空文庫に所蔵されているものを、楽天koboで読むことにした。

 

青空文庫『地上 地に潜むもの』

http://www.aozora.gr.jp/cards/000595/card46166.html

 

(激安だったので昔シャレで買ったkoboだが、最近主にこれで読書するようになった。電子書籍への抵抗がなくなったので、そのうちkindleを買うだろう)

 

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『地上』は、島田清次郎の自伝的作品である。

遊郭に暮らし、ついに東京へ出た青春時代が、出自ゆえの葛藤とともに描き出されている。

 

貧困のうちに成長したことからの、本物の政治家になり世界を変えるという志。

自由と封建が入り混じった時代の恋愛。

そして、東京と金沢の間で交錯する、主人公平一郎の血筋。

これからの雄大なビルディングスロマンを想像させ、風呂敷を広げに広げたままに、第一部は幕を閉じる。

(そして続編からは迷走がはじまるのだった)

 

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本筋はあくまでも清次郎の分身である大河平一郎の物語だが、本書の多くの部分は遊郭の描写に費やされている。

それらシーンの観察眼と、実体験がこれでもかと染み出てくる絶望・倦怠、日常への諦観だけで、この作品が尋常なものではないと理解することができた。

 

杉森 『天才と狂人~』のなかで、「遊郭への下世話な興味をかきたてるだけの小説」という当時の批評について言及されていた。

おそらく本当に、人生がままならないことを理解できない人々にとって、ただのゴシップ小説でしかなかったのだろう。

だが、諦観や倦怠に少しでも侵食されているのなら、大正日本の最下層にいた人間を、他人と感じられるはずがない。

西村賢太作品を読んだときにも同じ感想を持った)

 

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島田清次郎の限界は、自身について書くことしかできなかったことなのだろう。

私小説というにはニュアンスが異なるだろうが、この『地上 第一部』は、実物の清次郎と、理想化した青春とか渾然となった作品だ。

第一部の時点で既に、本物の人生、現在に追いつきかけていた。そのことが、この続きを完成させることを阻んだのだ。

 

第一部を読み終えるときに覚えた、続編を読みたいという強い欲求。おそらく続編は、それに応えられるものではないことを、残念に思えてならない。

 

 

地上―地に潜むもの

地上―地に潜むもの

 

 

 

 

 

島田清次郎 誰にも愛されなかった男

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